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【あひる歩き】ノルマ地獄 <第28回>逃げることは許されない…

【あひる歩き】
私は大人になってから、何度か引っ越しを経験しています。
色々な場所に住むとそれぞれの場所に合わせて、
部屋の構造や駅までの道にあるものなどが変わっていきます。
それによって新たに生まれてくるノルマもたくさんあるのです。

その中の一つがアヒル歩きです。
ある時期に住んでいた場所は駅から徒歩15分くらいの場所で、
毎日往復30分は歩かなければいけない場所でした。
その途中に広めの公園がありました。
公園と言っても遊具などはほとんどなく、あるのは鉄棒くらい。
夏のお盆の時期にはやぐらが建てられて
お祭りができる程度には広い広場のような場所です。
普段は公園の中を通り抜けることは少なかったのですが、
ある時ふと頭の中の私が急に思いついたように私に
公園の方へ行くようにと指示をしてきました。
嫌な予感がしながらも私は公園の入り口に向かいます。
もう夕暮れが近くなっており、人はほとんどいません。
だからと言って真っ暗なわけでもないので、
危ないということもないような状況です。
公園の入り口に立った私の頭の中に声が響きました。
「これから毎日この公園内はアヒル歩きで帰ろうか」
と。
アヒル歩きを体験したことはあるでしょうか? 
私は大人になってから知ったのですが、
足腰を鍛えるのに非常に適しており、
運動部などでも使われているトレーニング方法の一つだそうです。
やり方は簡単で、その場にしゃがんで両足首を両手で持ちます。
その状態で歩いて行くのです。
比較的楽な感じがしますが、これがすごく辛いのです。
普通に歩いている一歩が1メートル前後だとすると、
アヒル歩きでは一歩進んでも30cm前に進めるかどうかです。
通常の3倍以上の歩数が必要な上に、
ふくらはぎや太ももがパンパンになります。
ですが、私の中に生まれた
ノルマを達成しなければという思いに逆らうことはできません。
それを避ければ私自身はひどい自己嫌悪に陥るでしょうし、
自分で自分に罰を与えなければ自分を許すことができなくなるでしょう。
もう私は毎日アヒル歩きで公園を抜けていくしか道はないのです。
早速その場にしゃがみ込んでアヒル歩きをスタートさせました。
アヒル歩きが辛いということは経験済みでしたが、
それは室内での話です。
屋外ではしたことがなかったので、距離感が全然つかめませんでした。
実際に歩き始めてから、私はその真の辛さに気づかされることになります。
脚を前に出しても出しても全然前に進めないのです。
公園の入り口から出口まではたぶん100m以上あります。
最初の日、私はなんとか最後まで歩こうとしましたが、
実際には半分を経過した時点で脚の痛みに負けて
泣きそうになりながらリタイアしてしまいました。
もちろんそれが許されることでないのはわかっていたので、
別の日にその分を追加で行うことを決めて家に帰りました。
次の日から公園に差し掛かるたびに気持ちが重くなることが続きました。
私は雨が酷い日以外は毎日アヒル歩きを続けることになったのです。
もちろんこれは誰かに強要されたわけではありません。
ですが、一度やらなければと思った以上逃げることは許されないのです。
私はこの日から別の場所に引っ越すことになるまでの約3ヵ月間の間、
ほぼ毎日100m以上をアヒル歩きすることになったのでした……。

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操・・・5歳の時にMに目覚め、隠れて自分を苛め続ける。高校2年のとき、インターネットで知り合った男性を通してSMを知り、それ以来SMの世界に浸かる。痛みや苦しみを与えられると身体が反応し、相手に命を預けることで愛を感じる。