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読み終えぬまま過ぎた『秋』
「・・・・ネクターと韻を踏むのは、“彼女を思い出す」(リコレクト・ハー)”
“彼女を好きになる(アフェクト・ハー)”
“彼女を無視する(二グレクト・ハー)”
“嘘発券器(ライ・ディレクター)”
“フィルムプロジェクター”
“監督(ディレクター)”
“収集家”“反対者(ネブジェクター)”
なんと素晴らしい作風と翻訳だろう・・・・
EU離脱後のイギリス社会を生きる女性ボランティアと、彼女のかつての隣人で、今はほとんど眠り続けて社会のことなど知る由もない老人とのやり取りを描いた作品。
「秋」アリ スミス (著), 木原 善彦 (翻訳)
大事な受験勉強の合間に、現実逃避するように読んでいた夏。どうやら私はとにかく活字を読み書きすることが趣味らしい。
などと苦笑しながら短い夏休み、事件は起こった。
去年、2020年7月下旬、ある朝急激な心窩部痛で目が覚めた。痛すぎてまともに起き上がれない。
なんとかミュゲに食事を出し、病院が開くまで待つ。かかりつけ医のとこへすら、タクシーでなければとても無料。ようやく受診し、「熱が出たら救急へ行ってくださいね」ととりあえず薬を渡され、帰宅してすぐに服用。薬はピロリ菌除去薬、と説明にあり、おそらくこれが引き金だったのではないかと推測している。
その夕方、まどろんでいたら、見事に回盲部の激痛と発熱。
「虫垂炎だ!」
とにかく私は救急車を呼ばねばならないが、どうなるかわからないため、近くに住む友人に電話した。
「今から救急車呼ぶからミュゲをお願い!鍵あけとくから!」
そして119番。搬送されるまで、わずか2、3時間だった。この時期なので、まずPCRを受けたら、
「今搬送されてる患者の中で真っ先にオペする!」
と。全身麻酔を打たれながら忘れず伝えたら。
「陰毛はいつも剃ってますから大丈夫です。必要なら、入れ墨の竜は傷がついてもがぃせん」
我ながらそこは押さえていたから大したものだ。
目覚めたのはそれから4時間後。まさかそんなに経っていたなんて、麻酔おそるべし。
あとで聞いた話だと、搬送されたときには既に虫垂が破裂し、とにかく腹膜に溜まった膿を除去するのが大変だったそう。
「竜は切らなくて済んだからね」
と担当医が優しく説明してくれた。院内でも皆一目置く外科医の先生に命を救われたというわけだ。
入院すること10日間。何かつらかったというと、麻酔切れの痛みに加え、暑い中での絶食はまだしも水すら飲めないこと。おまけに当然服用していた睡眠薬や抗うつ薬も絶たれたから、もう自分でわかるくらい発狂。時折水を口に含んで吐き出すことだけ。
更に鼻から胃カメラのように管を通し、同じく回盲部からも悪液質を除去しなければならなかったこと。
鼻からは4日間。マニュアル通りにしか動かず、ナースコールを無視して患者の状況を笑い話にしている看護師に、2日目、ついにキレた。
向かいにいるタンが絡んで助けを求めている耳の遠くなったおばあちゃんに対する対応に頭にきた。薬切れしてたからなおさら。
鼻から通された管を引き抜いて口論すること2回。
追い出されてもかまわない覚悟だったが、さすがに病院側としてそれはできず、担当医に話したら別の病棟へ移された。
所変われば看護師の人柄も全く違って穏やかに残りの入院生活を終えることができた。
「さすがM女やってただけあって、痛みに強いんだね」
なんて言う友人がいるが、断じて別物。まさか急性虫垂炎てあれほど急速なんて体験するまでわからなかった。
そして、1ヶ月の自宅療養が必要なため、夏休みが過ぎたのはもちろん、学校へも行けず。
読みかけの小説の続きはタイトルの季節を過ぎていった。
半年以上を過ぎても、小腸の動きが悪く、鏡には栄養失調の子供みたいな姿を見ることに。これほど長引くなんて想像していなかった。そして、一度に食事がしっかり取れないし、消化しきれないため、お茶碗いっぱいの白いお米がこれほど恋しいと思ったことはない。
国家試験を前に、ある意味患者の苦しみに共感できる体験ができた、という超ポジティブシンキングができるのは、今だからかもしれない。
次の季節に、またあの本の続きをぜひ読み終えたいものである。
穂澄