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他人にはない、「異喜」実践で「活き活きしたまえ」と性事関心者らに呼びかけていた頃の私は、結構知人友人の数をかぞえていました。
「異喜の同好者」とも呼べる、小心な「SMファン」でもあったのです。そうした仲間が出来たのは、存在を明していたせいです。電話番号も印していました。
手紙のやりとり、フォトやイラストの交換等も「彼奴なら安心出来るカモ知れない」との思いを持って貰えたのだと考えますが、家族・家庭の内では全て不評でした。
特に定置電話、それは“癌”でした。「雑誌の読者です……」から始まる話はいいとして、深夜、早暁にも時刻に配慮なく掛けてくる人が多々ありました。
そうした事から、既存電話を編集室専用電話とするようにして、新しい電話をつけたのですが、その引き込み電話線を見ただけで、(儲かっているんだ)と決め込む人までが出現し、今で言うストーカーの被害感を味わいました。
見方を変えると、昭和の時代は平和でも、求知願望を満たす事では貧困状態だったのでしょう。
平成二十五年六月十三日発行となっている「週刊現代」に「名もなき『性の探求者』たち」の特別読み物が載り、老人は買い物の釣り銭をチロマカして購入、一読を果たしましたが、求知で言うと「ホホウ、そうかァ」と得るところがありました。
若い人達よ、居酒屋で半ば異性ハント目的で飲むのじゃなく、金を使うのなら週刊誌ぐらいは買いたまえよ、と言いたくなります。
記者という、他人が書いた記事でも、紙と印刷という媒体からは、雑学知識といえども「知ること、納得すること」が可能です。
老人の、記事からの「納得」は『風俗資料館』についてでした。
「SM」夢中家たちに対してのアンチテーゼを表現していた“ビニ本雑誌”では、出来るなら「公開資料展示室」を設立して行きたいの思いがあっても、資金準備積立など不可能で、国会図書館には納本制度があり収集されているだろうから等考えての諦めが湧きました。
東京方(がた)での異端風俗誌が、男色もの女装ものフェチものに傾きすぎているようで、薄気味悪さが先に立ち、雑文・エロスト等の投稿は控えていましたが、「平牙人」氏の名前が挙げられていても、『風俗資料館』の存在は有難く、永久存続を希むのもがあります。
名の呼び方も知らなかった著述家が、オーナーだったとはねぇ……。くすぐったさも覚える事ですが、照れる程に私の「SM界交際」は狭いものだったのです。
しかし老人は、それを不味かった、損したなァとは思いません。知己限定の世界にいた事が「前科」を背負う事なく過せたからです。
犯罪者視されずに済んだ事は、エロ物での稼ぎに走らなかった証左となる事でもありますから。
かつては、フォトでもイラストでも、陰毛描写があれば、「お前、一寸来い!」と官憲に呼びつけられましたし、そうならない為の神経も使いました。
前門(女性器)写し込みは絶対的NGでも後門(排泄器=肛門)は生殖器ではないから大丈夫、と言った論理から「アナル責め」なる話題、乃至は「浣腸悦楽」話題を生んだのでした。
昨今のマニア事情では、気弱な老人がオッタマゲル程、露骨惨忍な映像ものが見られるのですから、世の様変わりに恐れ入っております。羨しいのではなく「異喜」表現を好む老人からは、「真似はやめ給え」となる事柄です。
ある有名な流行歌のモデルになった実在の女性がいました。
作詞家の隣家、妾宅に軟禁されていた婦人で、御当人の事を知りたければ、『風俗資料館』を訪ねて「S&Mスペシャリー」誌を閲覧してみたまえ、です。
婦人の“旦那”は――駒込に棲んでいたという“責絵大家”の許へ、一升壜提げては訪ね、「責め女」撮影の手伝い、写真現像とその発表手伝いをしていた、と自慢していた――元特攻隊員でした。
彼氏は私をストレス発散のための相手としており、その流行歌の為に「KK誌」での私のペンネーム「中宮栄」が使えなくなったといった裏事情もあります。
他人との係わりは、慎重にしたまえよ、となる挿話です。
■荒川也寸志
編集者、エロストレーター、文筆家。中宮栄の名で奇譚クラブに投稿。その後はSUN&MOON(サン&ムーン)、スペシャリーSM、異喜域、にちげつクラブ、SPROUT(スプロウト)、SMミラージュなどを創刊。荒川・中宮以外にも世田介一、多貫欣など多くのペンネームを使用している。
■氏に連絡を取りたい方は下記までご連絡ください。
三和出版秘性編集部
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