真・エゴイストのつぶやき 第12回【エルメスのリボン】

久しぶりに穂積さんから、原稿が届きましたので、掲載します。



【比翼連理】
彼女とは互いに一瞬で引き合うものを感じた。
ケージの中でまんまるい瞳でわたしをずっと追っている彼女の視線をわたしは肌で感じていた。
そして三度目の面会で彼女を迎えることを決意したのだ。

彼女の名前はミュゲ、わたしの花、すずらんのフランス語だ。
花言葉である「幸せの訪れ」が、彼女と彼女を取り巻くすべての人に与えられますように、という思いを込めて。
2016年3月3日、こうして我が家に生後ちょうど三か月を迎えたそれはそれはかわいらしく美しいロシアンブルーの子猫がやってきた。
まんまるな青い瞳と艶々のブルーグレーの毛並み、しっぽが濃淡のある縞模様にになっているのが特徴だ。
我が家には、わたしと会話をするたくさんのぬいぐるみたちがいる。
ペガサスもそんなぬぐいぐるみで、以前、
「姉さんが飼うならロシアンブルーだよ。似てるから」
と言っていた。
きっと性格を指して言ったのだろう。
ちょっと神経質で環境の変化にとても敏感。
だけど寂しがり屋の甘えん坊なミュゲとわたしはどこか似ている。
ミュゲを迎えてそんな彼らを傷つけたりしないか、少しの心配があったのだが取り越し苦労だった。
初夜。まだ首輪もつけていない静かなミュゲはどこにいるのかわからなくなり、わたしは辺りを探した。
するとぬいぐるみと一緒に並んで小さく座っているミュゲの姿のなんとかわいらしいことだろう。
彼女にとってぬいぐるみはわたしと同じく一緒に暮らしていく仲間だとすぐにわかったに違いない。
警戒心の強いミュゲを刺激しないように部屋に慣れるまでわたしはそっと見守るだけにしておいた。
三日も経つとミュゲは部屋に馴染んでくれたが、彼女はとても戸惑っていることがあった。
弱視で斜視のわたしと目が合わないことだ。
美しい彼女を見つめずにいられる人などこれまでいなかったであろう。
ところが自分を愛していることは感じるのに、その人は自分と目が合わない。
ミュゲはそれに戸惑っていた。
そこでわたしは彼女に約束した。
「目が合わせられないけど、わたしはいつもあなたを見ている。そして見ている分たくさんの愛の言葉をあなたに呼びかける。」
ミュゲを迎えて以来、わたしの口数は以前の10倍になったと知る人たちは言う。
それはわたしとミュゲの約束なのだ。
ちょうどまるひと月は毎日ミュゲと一緒に過ごす時間があった。
わたしは常に人に話すのと同じように彼女に話しかけ続けた。
あなたが来てくれてどんなに幸せか、外はどんな様子だったか、など。
家に迎えてすぐにまずなにか遊べる物をあげたいと思った。
子猫でも安全に遊べるおもちゃ。
そこでたまたま取っておいたのがエルメスのリボンだったのである。
揺らしてみるとミュゲは目を輝かせて飛びつき、わたしが手を放してもそれはもう最高のおもちゃを手に入れたが如くはしゃぎ、夢中で遊んでくれた。
どんなものでもきっとよかったのだろうが、こうして毎年エルメスの手帳のレフィルを買うたびについてくるリボンは、わたしにとってミュゲとを結びつける思い入れのある逸品となったのであった。
夜中になると、まだ幼いミュゲは母猫のお乳を探す仕草をする。
うっとりと夢遊病のようにふかふかの自分のベッドでいつまでも母猫を思い続けるその姿は、時に見ているわたしをとても切なくさせた。
わたしにはどう頑張っても彼女のさぞ美しいであろう母になってやることはできないのだから。
それでもひとしきりゴロゴロとベッドを探り終えると、ミュゲはこの上なく幸せそうな寝顔を見せる。
少しでも彼女が此処にきて幸せだと感じられるようにしてあげたい、してあげよう、そう強く誓った。
ミュゲを迎えた春、この部屋にすずらんの生花は持ち込まない。
猛毒をもつその花で彼女が命を落とすことのないように。
話しかけるうちに多くのことをミュゲは理解し、わたしたちは驚くほどたくさんの話をするようになった。
まさかと思われるだろうし、わたしも日本語としてミュゲが理解しているかは確信がもてない。
しかし何かの力でわたしたちの会話はなりたっているらしい。
そんな日々で彼女はとても大切なことを教えてくれた。
今でも、そしてこれからも彼女が教えてくれたことをわたしは決して忘れない。忘れてはいけないのだ。
作業をしているわたしをそっと見守ってくれつつも、かまってほしいという目をちらりと見せ始めたミュゲのために、かけがえのない彼女からのメッセージエピソードはまた次回にて。
文責・穂積

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