たまえ講座⑩【荒川也寸志】

「秘性」と言う、中々立派なマニア・ムック誌を編集部員から、見本です、参考にどうぞ、と頂戴して、老人は羨しいやら、内容恐ろしいやらで、すぐには感想を言い出せませんでした。
 フォト頁の各光景からの印象は、男性の嗜虐欲者の実践力は「ホウ、ここまでやるか」の驚きとなり、被虐演技人の異性には「ブランド品欲しさが、こうも恭順ぶれるのねぇ」の呆れとなって目に映りました。
 非情なる光景として見るのではなく、マゾヒスト存在を信じる映像資料とすれば、モデルの喜悦ぶりが、見る側の快感にもなって喜ばしいのですが……マゾヒストの哀れさともなり、距離置く人達に、老人はしてしまいます。
 外国旅行を、生活の余裕から楽しんでいる「SMファン」から、「お土産になるかどうか……」など言われて手にした物に、「SMクラブ ドマ」の案内書がありました。
「いや珍らしい。頂戴して良いものなら、スクラップブックに貼り込んで、大事にとっておきますよ」
 と、老人は拝受となりました。
 彼氏の旅行には、同伴者が必ず居ます。単独旅行の際は、沈黙し報告もなしなのに、パンフレットを持ってとなると、「ドマでの愉楽」を味わって来た事だと、睨みました。
 しかし、緊縛こりして「責め折檻ごっこ」が大好きな日本人男性は、レザーコスチューム・スレーブが待機するクラブは、肌があわず「こんな所だったのかァ」の失望で終ったようでした。
「SM商売のクラブって所は、何処も似たり寄ったり。也寸志エロストの『嬲巣(のうす)』のような世界ってないなァ……」
 と、お世辞的感想で見聞録終了となりましたが、斯界事情からは、それでいいのだと老人は思っています。
 旅行人の連れ歩き女性は、「マゾ的体験大好きウーマン」で、想像する「O嬢」の、それ以上な生活をしていました。物語の「O」は、ファッション・カメラウーマンでしたが日本女性は米国人との間に生まれたハーフで、男の通訳にはなれた以外、ことごとくセックス昂進タイプでスレーブ生活を楽しんでいました。ただ、マスター同様、レザー臭気は苦手で、麻縄の一寸した油臭さは大好きだと言う、変り者たちだったのです。
 二人は、日本国内での「人相知れ」を強く警戒し、フォトはポラロイドだけでしたから、私にシャッター切りの役は来ても、映像入手は断たれっ放しでした。
 本当に「SM遊戯」が好きな人種はいるものです。性欲の強さも「ヘッ」と思う位、劇烈な御仁がいて、老人の欲が雑誌作りに向くなら、誌題は「世(よ)」として、世間大衆の「裏性」あばきがしたいなどと思います。「よ」または片仮名の「ヨ」にしても、一文字で全てを表わし含めるナンテ、いいと思いませんか。
「よ」は、人々に知識・技法を伝える・与えるの「与」ともなる事ですから、誰かの資本で実際に刊行できたら、ギネス登録が果せるでしょうに……。
 物作り(出版・ビデオ販売)での営業能力はなく、失敗続きで、妻には全く頭が上りません。日々「もうしないで」「しないでェ!」を聞かされ続けています。
 なにしろ、堅い堅いサラリーマン家庭育ちでしたから、「芸術家たらん」としていた男の嫁に、強引に“された”意識を持ってしまったワイフ殿は、柔軟な神経で対処する妥協暮らしは出来ないのです。
「こんな筈じゃなかった」を言われ続けたら、痴話喧嘩に離婚となるコースが待つのみでしょうが、勘弁したまえ……で過した一生となって終りそうです。
 夫婦間の「セックスの相性」が良かったとは言いません。生活の演出をして来た工夫あっての暮しが五十余年の仲となったのです。
 老人の母親は、「痴呆症」表現がなかった「アルツハイマー病」呼ばわりの時代に、騒ぎを残して亡くなりました。
「痴呆症」椿事は、対岸の火事のようなもので、人によっては少しも深刻な話題とはならないものですが、周囲は大変な出来事となります。
 今や「痴呆症対策、云々」が目につく時代となり、円満・積極的セックスが予防になるとさえ言われ出しています。老人は、意見を足して「異喜と健全な交合」は何よりの幸せになる、心掛けたまえ、と言いたくなってきています。
 区切ると10話となる「たまえ講座」でしたが、次からは出来るだけ図柄・写録を持ち出して、かつて小中学校の学習にあった「視聴覚教育」のように構成変えをして貰い、たまえ言辞をためて行こうと考えています。
 老人の若い頃の事を知る読者衆は、既にSM離れ、異喜忘れをしていて僅少数でありましょうから、学習雑誌があるように、古い話の繰り返し、再録も試みてみましょう。
 昔ばなしにも少しは関心を示してくれたまえ。何等かの参考には役立つと思うから。

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