『串名田村奇譚』 (左母次郎) 【第4回】

●第4話「対決」
電話を切ってから30分ほど後。ごつい4WDが目の前に停まり、救急箱を手にした呂末氏が降りてきた。
「派手にやられたな、大丈夫か」
あちこち痛むものの、傷の程度は大したことはないようだった。これなら動ける。応急手当てを受けながら事情を説明した。妹が生け贄に選ばれたこと、逃げ出した妹を村人が追ってきたこと、妹が連れ去られたこと……。
「呂末さん、ぼくにはもう穂海しかいない。穂海を助け出したいんです。力を貸してもらえませんか」
彼は躊躇しなかった。
「どのみち串名田村には行くつもりだったんだ。力になるよ」
4WDは深夜の高速道路をひた走る。
「ところで、作戦はあるのか?ぼくは何をしたらいい?」
呂末氏が訊いて来た。しばらく考えて口を開いた。
「ぼくがまず1人で村に潜入します。呂末さんは暗くなるまでどこかで待機して、祭が始まったら村はもぬけの殻ですから、車で突入してください。で、ビデオカメラが必要なんですが、持ってますか?」
「ああ、いいものがある。後部座席を見てごらん」
後ろを見ると、何やら奇妙な物体があった。差し渡し1メートルほど、見た感じは脚の先にプロペラがついた蜘蛛、だろうか。
「最新型のドローンだ。超高感度カメラがついていて、少々高いところからでもはっきり写る」
「じゃあ、お願いします。祭の様子を撮影してください。ぼくは祭に乱入して、何とかして妹を助け出します」
「任せてくれ。もともと祭の様子を証拠に残すために用意したんだ。撮影した動画はこっちのラップトップに転送してインターネットに公開出来る。生中継だよ。全世界に見られているって言ってやれば、連中も祭どころじゃなくなるだろう」
呂末氏は小気味良さそうにに笑った。
「しかし、君1人で大丈夫か?村には腕っ節の強いのもいただろう?」
「ぼくと妹なら心配はいりませんよ。ぼくはあの村の出だから、隠れる場所や抜け道には詳しいんです。それに……失敗しても証拠が残れば」
「そうか……」
「ドローンを回収したら村を出た辺りで待っていてください」
「……わかった」
じつのところ、うまくいくとは思っていなかった。妹を死なせずにすむ方法は一つしか思い浮かばなかった。が、それをいまここで口にすることは出来ない。反対されるに決まっているからだ。
串名田村へ続く山道の分岐点についた頃には、すっかり明るくなっていた。
「この道をまっすぐ行けば村に着きます。この車なら大丈夫でしょう。あとは…お願いします」
「ああ。くれぐれも無茶するな」
ぼくは4WDを降り、動物の踏み後のような細い道に分け入った。村を迂回して「山」へ向かうルートだ。村から離れているためぼくの「声」を聞かれる可能性は低くなる。それでも用心しながら、道とも呼べないような道を進んだ。
「待っていろよ、穂海」
陽が暮れかかった頃、「山」に着いた。すでに村人が集まり始めていた。石舞台にはかがり火がたかれ、村人達は全裸でその周囲に群がり、例の歌を歌っていた。祭が始まったのだ。ぼくも服を脱ぎ、村人達に紛れ込んだ。村人達はトランス状態で、ぼくに気がついた様子はない。
串名田村奇譚4
歌声に混じって、上空から石舞台を撮影しているドローンのかすかなモーター音が聞こえる。呂末氏は村に無事着いたようだ。
やがて、人の群れをかき分ける様にして、神職の衣装を身にまとったムラオサとその取り巻きが現れた。その後から、後ろ手に縛られた穂海がついてくる。昨日攫われた時のまま、全裸に黒々とした紋様を身体に書かれている。一行はしずしずと石舞台へ上がった。 
ムラオサは穂海に、頭を下げて尻を突き出すような姿勢をとらせた。取り巻きの一人から「槍」を受け取って、その先端に柄杓で水をかけ、清めた。別の取り巻きが穂海の腰を両手で押さえ、ムラオサは「槍」の先端を穂海の尻に宛てがった。
「やめろ!」
 ぼくはあらん限りの声で叫び、石舞台の上へ上がった。ムラオサは振り向き、「槍」をぼくに突きつけた。
「よく戻ってきたな、勇穂。その度胸、褒めてやりたいところだが、いま大事なところなんだ。そこでおとなしく見ていろ」
ぼくは空中を指差し、声を張り上げた。
「この祭はドローンで撮影されている」
取り巻きの何人かが空を見上げた。ドローンに気づいたようだ。
「大勢がインターネットでこの光景を見ているぞ」
「それがどうしたというのだ」
ムラオサは怯んだ様子もなく言った。
「外の世界の法律だの常識など、村の掟に比べれば些細なことだ。邪魔をするなら死んでもらおう」
ムラオサは「槍」を構え、まっすぐに突き出した。ぼくは躱さず、逆に「槍」に突進した。「槍」はぼくの胸に深々と突き刺さった。
「うわあああ!」
絶叫しながら足を踏ん張り、体重をかけると「槍」はずぶずぶと身体にめり込み、切っ先が背中から突き出した。ムラオサは「槍」を引き抜こうと躍起になったが、筋肉に食い込んだ「槍」はびくともしなかった。ぼくがたった一つ思いついた、妹を死なせずにすむ方法というのはこれだった。これで「槍」は使えまい。
「くそ、お前達、手伝え!」
ムラオサの指示で取り巻きが群がって来た。彼らは力任せに「槍」を引っぱった。引きずられて穂海の傍らにがっくりと膝をつく。血が大量に流れ落ち、気が遠くなりかけたが、「槍」を両手でしっかりと握りしめた。死んでもこの手は離さない。
突然、ムラオサも取り巻きも一斉に「槍」から手を離した。目を開けると、全員が驚愕の表情でこちらを見ていた。
「槍」が光っていた。
続く


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