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ついに最終回!『牝犬物語』 【第5話】

悪夢のような行為は明け方まで続いた。冴島はようやく満足し、私はコンクリートの床に崩れ落ちるように眠りに落ちた。

気がつくと陽は高く登っていた。体が痛くて起き上がることが出来ない。ごみくずになったような気分だった。冴島はベッドの上で全裸のまま高いびきをかいている。

ご主人様の所へ戻れないまま、この下衆の極みのような男に飼い殺しにされるのだろうか。そう思うと涙がこぼれた。死んでしまいたいとさえ思った。

ふと、首もとに手をやってはっとした。鎖が首輪から外れている。昨夜、冴島が邪魔だと言って外したのを思い出した。そのまま眠り込んでしまったようだ。思わず舞い込んだチャンスに胸が躍った。逃げよう。いま逃げなければ、一生ご主人様に会えない。

音を立てないようにして体を起こす。歩こうとするとお尻に鋭い痛みが走った。あんな太いものをねじ込まれて、お尻の穴が裂けてしまったのではないだろうか。歯を食いしばって耐える。一歩、もう一歩、ドアの方へ。案の定、鍵はかかっていなかった。二人組は私が逃げられないと思って油断しているのだ。建付けの悪いドアはそっと開けたつもりでも嫌な音をたてた。忍び足で外に出る。久しぶりの太陽の光に眼がくらんだ。

今まで閉じ込められていたのは、山の中を走る県道沿いの廃業したガソリンスタンドだった。敷地内に車が1台停まっている。冴島のだろうか。二人組の車がない。今のうちに少しでも遠くへ逃げよう。私は可能な限り急ぎ足でひと気のない県道を走った。今にも二人組か冴島が追いかけて来そうで、生きた心地がしなかった。

犬5

しばらく頑張ったが、お尻の痛みで歩くことが出来なくなった。まだガソリンスタンドからそんなに離れていない。ここではすぐ見つかってしまう…。警察に保護を求めようにも公衆電話すらない山の中だし、まさかヒッチハイクをするわけにもいかない。途方に暮れた。

と、車の気配を感じた。大急ぎで物陰へ身を隠す。走って来たのはポンコツの軽トラックだった。追っ手ではなかったとホッとしたが、見つかって騒がれたくはない。息をひそめていると、軽トラックは私の目の前で停まった。見つかったのかと焦ったが、そうではなかった。運転席からタオルで鉢巻きをした老人が降りて来て、道ばたで立ち小便をはじめたのだ。

今度も私はチャンスを見逃さなかった。軽トラックの荷台に素早くもぐり込む。老人は何も気づかないまま運転席に戻り、エンジンをかけた。ガソリンスタンドがみるみる遠くなっていく。助かった、と心の底から思った。

1時間ほど走って、軽トラックは農家の庭先に停まった。老人はいま帰ったぞ、と母屋に消えた。私は明かりが消えるまで待って、そっと軽トラックから降りた。しばらく休んだせいか、お尻の痛みはいくらか和らいでいた。歩けないことはない。暗がりの中をしばらく行くと、さっきとは別の県道に出た。寂しげな街路灯がぽつん、ぽつんとずっと向こうまで続いている。地名を書いた標識があるが、聞いたこともない土地で、どっちに行けばいいのかまったくわからない。

だが、私は歩き出した。いつかきっと帰ることが出来る。忠実な犬として、愛するご主人様のところへ。それがどんなに長く、辛い旅だとしても。

<終>


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