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左母次郎先生、新連載! 『牝犬物語』 【第1話】

「ただいま、ポチ」
 会社からご主人様が帰ってきた。私は玄関で待ち構えていてじゃれつく。
「わん、わん」
「こらこら、歩けないじゃないか」

 ご主人様は笑いながら私の頭を撫でる。そして鞄からペットショップの包みを取り出した。私へのプレゼントだ。開けてみると、新しい首輪が入っていた。嬉しい。
「結婚記念日だからな」
 ご主人様は私に濃厚なキスをしてくれた。 

 彼とは友人のホームパーティで知り合った。最初は近寄りがたい印象だったけれど、話してみると気さくで優しい人だとわかった。ルックスも悪くなく、お金持ちの御曹司、しかも独身。メールアドレスを交換し、その日のうちにデートの約束をした。交際はトントン拍子に進み、いよいよ結婚というゴールが見えてきた頃。

「これ、やってみないか」

 彼が私に見せたのはインターネットのアダルトサイトだった。裸の女性が首輪をつけて犬になっている。やだ、これって、SMプレイっていうのじゃないかしら。でもちょっとエッチなゲームだと思ってOKした。首輪をつけて「わん」と吠えるのにはちょっと抵抗があったが、「可愛いよ」などと言われると嫌な気はしなかった。

「散歩に行こうか」

 彼は言い出した。外に出るのは恥ずかしくて嫌だったが、おそるおそるマンションの廊下に出てみた。他の住人と出くわすのではないかと思うと気が気ではなかった。心臓がどきどきして体が震えた。彼はいつになく興奮して、壊れてしまうくらい愛してくれた。

犬1

 それからというもの、彼は私と過ごすときは犬になるように要求した。私自身は正直あまり気乗りしなかったのだが、彼が喜ぶならと、すすんで首輪をつけた。

 ある日、彼は告白した。
「僕の飼い犬になって欲しい」
 変だなとは思っていたのだが、彼には女性を犬にして飼いたいというアブノーマルな性的嗜好があったのだ。それはもはや「ごっこ遊び」で満足出来るものではなかった。

「今まで女性とつき合っても、真剣に愛することが出来なかった。僕の願望に応えてくれるひとなどいなかったんだ。でも君は違う。君は僕を受け入れてくれた。犬になった君なら全身全霊で愛する事が出来る。どうか、僕と結婚して、ずっと犬のままでいてくれ」

 奇妙なプロポーズだった。どう答えていいのかわからなかった。

「君が普通の女性として愛されたいのなら、僕の事は忘れてくれ」

 彼はそう言って眼を伏せた。その場でさよならしてしまうことも出来ただろう。でも私はそうしなかった。

 結婚式は二人きりで挙げ、その日から私の犬としての生活が始まった。彼は私を「ポチ」と呼んだ。彼は配偶者と飼い主の二重の意味で「ご主人様」だ。もっとも、私が言葉でそう呼ぶことはないが…。

 裸に首輪だけをつけてマンションでご主人様の帰りを待つだけの日々。それでも私は幸せだった。ご主人様の愛を独り占めできたのだから。

続く


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