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妄想怪談話【第4話 蛭屋敷】

学校からの帰り道。
亜季は図書室で借りてきた推理小説を小脇にかかえ、
うきうきしながら歩いていた。
早く帰ってこの本読もうっと。
やっと順番が回ってきたんだから…

ふと、何か聞こえて足を止めた。
泣き声だ。誰か泣いてる…
路地を曲がった所で黄色い帽子をかぶった男の子が泣いていた。
小学校一年生か。幼稚園児かと思うくらい幼い印象の子だ。

「どうしたの?」

声をかけると、しゃくりあげながら路地の奥の方を指差した。
見ると、黄色い帽子の男の子数人が物陰から様子をうかがっている。
ははあん、いじめっ子だな。
亜季は弱い者いじめを見過ごせない性分だ。
男の子達が隠れている方へつかつかと歩いて行き、一喝した。

「こらあっ!」

男の子達は一目散に逃げだした。
どんなに威張っていても、さすがに中学生にはかなわないらしい。
亜季は小さな男の子を振り返り、優しく声をかけた。

「もう大丈夫。
泣かなくていいよ」

男の子はうなづき、蚊の鳴くような声でありがとうと言った。

「お家はどこ?
送ってってあげる」

男の子があっち、と指差したのは住宅地の外れ、
木立に埋もれたような古い洋館だった。
子供達の間ではお化け屋敷と呼ばれている。
確か、自称生物学者のお爺さんが住んでいたけど、孫がいたのか。
少しばかり驚いたが、そんなことはおくびにも出さず、
亜季は男の子の手を引いて歩き出した。

「どうしていじめられてたの?」

「みんなが、ぼくのこと気持ち悪いっていうの」

「どうして?
ちっとも気持ち悪くなんかないよ」

「あのね、ぼくの家、ヒルがいっぱいいるの。
そのヒルがね、ランドセルにくっついてきたから…」

「ヒル?
あの、血を吸うヒル?」

「うん」

男の子はうなづいた。
それはたしかに気持ち悪いかもしれない。

「おじいちゃんがね、ヒルの研究をしてるの。
だから、家じゅうにヒルをいっぱい飼ってるの」

うわ。
亜季は逃げ出したくなってきた。
男の子の家はもうすぐそこだ。
近くで見ると古いばかりでなく、
そこだけ陽がさしたことがないかのように暗くじとっとして見えた。
まさにヒルの巣窟だ。

男の子は玄関の前でぺこりと頭を下げた。

「ありがとう」

亜季はじゃあね、と言おうとした。
声が出ない。
おかしいな、と思った時には全身がぴくりとも動かせなくなっていた。
金縛り!?
視界が急に暗くなり、
亜季と男の子の立っている所にだけ弱々しい照明が当たっているように見えた。

「孫を助けてくれてありがとう」

いつの間にか、男の子の隣に小柄な老人が立っていた。

「私がこんな研究ばかりしているからか、いつも一人ぼっちでね。
不憫に思っていたんだ。
できればきみ、この子の友達になってやってはくれないか」

老人は男の子のランドセルを撫でた。
すると、それが合図だったかのように、
ランドセルの中からおびただしい数の蛭が涌きだした。
ヒルはランドセルの蓋を押し上げて次から次と地面に落ち、
亜季の方へ這って来た。

「私にとっては、この子と同様にこの蛭たちも大事なんだ。
彼らとも仲良くしてやってはくれまいか」

蛭の群れは亜季の足を這い上ってきた。
パンツの中へ潜り込み、もぞもぞと蠢いた。
悲鳴を上げようとしたが無駄な努力だった。
蛭はさらに体を這い上ってきて、セーラー服の中に溢れ帰った。

妖怪9

「心配する事はない、
それは私が遺伝子操作でつくりだした全く新しい蛭でね。
人間の体に吸い付いたら一体化して離れなくなる。
だがね、血液を浄化して健康を保つ働きをするんだよ。
見た目はちょっとグロテスクだけどね、
これがあれば人間の寿命はうんと伸びるだろう」

老人はにんまりと笑った。

「何匹かプレゼントしようじゃないか。遠慮する事はないんだよ」

体のいたるところで蛭が吸い付くのを感じた。
亜季は絶叫した。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

男の子の不思議そうな声で我に帰った。
老人も、蛭も、跡形もなく消えていた。
いや、最初からいなかったのだろうか。

「な、何でもないの」

無理に笑顔をつくって手を振った。

家に帰った亜季は気分が悪いと言って布団にもぐり込んだ。
体を這い回る蛭の感触が蘇ってきて、何度も叫び声をあげそうになった。
夜になって眼が覚めた。
気分がすっきりしている。
お腹も空いたし、まずはお風呂に入らなきゃ…
パジャマを脱いだ亜季は愕然とした。
両方の乳房の先に、巨大に膨れ上がった蛭が吸い付いていたのだ。
それは彼女の心臓の鼓動に合わせてぴくぴくと脈動していた。
気を失って倒れる瞬間、亜季の脳裏にあの老人の笑い声がよぎった。


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コメント一覧

  1. TT

    蟲に生理的嫌悪でゾクゾクしました!
    でも自分もヒルを寄生させるなら、乳房だと思いましたね。どんなに健康体でいられるとしても、あの姿は可愛そうですねw

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