三和倶楽部厳選全国マニアック店

妄想怪談話【第3話 人食い跳び箱】

日曜日の午後。千恵子は足取りも重く学校へ向かっていた。

「やだなあ」

運動会の障害物リレーの選手にされてしまったのだ。
体育が大の苦手なのに。
コースの途中にある跳び箱が最大の難関だ。
むり、と言ったところで誰も取り合ってくれなかった。

「練習すればいいじゃないか、僕が見てあげるよ」

先生が言ってくれた。
そんなわけで、今日、学校の体育館で跳び箱の練習をすることになったのだった。

体育館の入り口に着くと、すでに鍵が開いていた。

「先生」

呼びかけながら中に入る。
体育館の真ん中には古びた跳び箱がセットしてあった。
千恵子の通う学校は歴史が古く、建物も備品も年代物ばかりだ。
この跳び箱も戦前からあると聞いていた。

「ごめんごめん、待たせたね」

突然、先生の声が響いた。
だが姿が見えない。

「先生、どこにいるの?」

「来る途中ちょっと怪我をしてしまってね。
驚かせちゃ悪いから隠れてるんだ」

声は跳び箱の方から聞こえて来るようだが、そこには誰もいない。
跳び箱の中?
まさか…

「大丈夫なんですか?」

「ああ、大丈夫。
それより、練習を始めようじゃないか」

「着替えてきます」

千恵子が更衣室へ行こうとすると、先生はそれを制した。

「その必要はないよ。裸になってごらん」

「裸に!?」

「恥ずかしがる事はないよ。
正しくアドバイスするためには、きみの体の動きをよく見る必要があるんだ」

「でも…」

「これはあくまでも教育なんだ。
いやらしい気持ちで言ってるんじゃないんだよ」

「…」

千恵子は次第に裸にならなければいけないような気がしてきて、
その場で服を脱いだ。
あいかわらず先生の姿は見えないが、じっと注がれる視線を感じた。

「よし、じゃあ、やってごらん」

千恵子は助走をつけ、踏切板を蹴った。
だが勢いが足りず、跳び箱の上に尻餅をついてしまった。
上面のクッションは妙に生暖かく、ぐにゃりとした感触が気味悪かった。

「もう一度」

何度やってもうまく跳べなかった。
陽が傾き、外からひぐらしの音が聞こえ始めた。
疲れきって、うんざりした気分で跳び箱から降りようとすると、
何かが尻を撫でた。
べっとりした肉のかたまりのような何かが。

「きゃっ!」

悲鳴を上げて転げ落ちた。

「どうした?」

「いまお尻を…ぺろって…」

舐められた。
そう、大きな舌で尻を舐められたのだ。

「何もいないぞ。
気のせいじゃないのか?」

確かに、体育館の中には千恵子一人しかいない。
そもそも、そんな大きな舌を持った動物がいるわけがない。
では今のは何だったんだろう…?

「さあ、もう一度だ。頑張って」

「はい」

千恵子は今度こそと走り出した。
早く終わらせて家に帰りたい。
跳び箱が迫って来る。
踏切板を蹴って…
突然、跳び箱がぐにゃりと歪んだ。
跳び箱になりすましていた何かが正体を現し、
大きな口をぱっくりと開けたのだ。
悲鳴をあげる間もなかった。
千恵子はその口の中に飛び込んだ。
巨大ななめくじのような舌がその体をからめとる。

妖怪8

巨大な歯と歯の隙間に先生の眼鏡がはさまっているのが見えた。
次の瞬間、重い扉が閉まるような音をたてて口が閉じた。
跳び箱は久しぶりの獲物をむしゃむしゃとうまそうに咀嚼し、
ごくりと音を立てて飲み込んだ。
先生の声で満足そうにげっぷを一つ。
体育館の中は何事もなかったように静まり返った。

夜になり、警備員が見廻りに来た。
懐中電灯で体育館の中を照らす。
何もない。
当たり前じゃないか。
今日は日曜日だ。
誰も体育館に入っていない…はずだ。

「おや」

懐中電灯が開けっ放しになった体育倉庫の扉を照らし出した。

「しょうがないな」

体育倉庫の中を照らすと、跳び箱の位置がいつもと違っている。
床も傷だらけだ。
跳び箱を誰かが引きずって動かしたに違いない。
報告書に書いておかなくちゃ。
片付ければいいってもんじゃないだろうに…
 
警備員が立ち去ると、体育館のあちこちからくすくす笑いがわき起こった。
やがてそれは哄笑となり、真っ暗闇の中に響き渡った…。


マニア誌ブログ編集部では、本作品の感想や叱咤激励、【左母次郎】さまへのファンレターなど随時お待ちしております。

コメント一覧

  1. TT

    左母次郎先生の女の子は大人しくて可愛いですね、僕も食べてしまいたいです。先生の言いつけを従順に守る辱め、楽しませていただきました。

    • 左母次郎

      TT様
      コメントありがとうございます。気づくのが遅くなってすみません。いま第5話を描いていますが、悪戦苦闘しています。
      今後ともよろしくお願いします。

コメントする

三和出版新刊情報