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たまえ講座⑤【荒川也寸志】

 昭和八年(1933)八月生まれの、晩期老令者となった私は、極く最近になって、恐らく終のすみかとなろう居住場所に落着けたのですが、「八」を算用数字で表すと「8」となり、8を横にすると“∞”となって……無限大か永遠を意味しているようで、気に入っているのです。
 五十年も続いた結婚で、妻には心底感謝し常々「我々は真の結婚をしてるんだ」とも口にします。 
 借金ばかりして来たような、雑文書きの道楽暮しをして来た男に対し、よくぞ見限り離縁を言い出さずに居てくれたと思うと、「真の結婚」だと考えますし、他人の生活を眺めると、「彼等は継婚にすぎない」との感想を持つのです。
 ブログ作りを進めていてくれる編集人に、「荒川先生」と称されていても、老人は「先生」を医師や代議士らに呼びかける際の尊称とは思わず、そっくり返らず、(君らより先に生まれた人間)と思っての「ハイ、ハイ」返事をしているのですが、かつての軍国少年は未だ姿勢を良く保っていられる事から、よく偉そうにしていやがって風に見られます。
「欲しがりません、勝つまでは!」の教育を受けて育って来た者にとって、他人様の「SMプレイのパートナー(M女)」も横取りしようなど思う事はなく、自力獲得に励んだものです。
 その様な「我が道を行く」の思いの人間ですから、世間に対する嘲笑感も生まれて来るのです。
 「性」に関しての話題で、異性の評価判定などに「名器」「粗器」を言い、「うわつき」「下つき」を問題にしますが、「手前の魔羅はどうなってるんだ。男にも“うわつき・しもつき”があるんだゾ。それを知らずに接合時の良さ悪さを言うな」と言いたくなります。
 セクソロジーストも、著作にソレを言いませんね。バッカ野郎共、です。
 ラーゲには四十八手あり、とか六十二体位があり、それを極めるのが好色大家と表現する愚も気にくわない話です。快楽の為のレパートリーを拡げる欲より、男は女の不思議さを確かめよう、婦資疑を晴そうと自分なりに努力してみることが必須です。
「結婚」は、それが出来る生活の事で、それ以外は打算がまとわりついた「継婚」です。
 老人は、春画も煽情小説も、集めたり読んだり見たりはしていません。性愛は己れと伴侶の間で極めれば善としています。風俗境地での遊興は無縁でした。男女間享楽は互愛の態度で味わえば充分に満たされるとの信念で生活して来たつもりですし、先生人の「こうして御覧よ、したまえよ」のダンベリングも、そうした流れでして来ました。
 先生人じっさまは、必要があって外出する時、短時間で排尿感に襲われ、トイレ探しが急かされます。その場合、ドア付き男性トイレは極力避けます。
 ドアノブを掴み、その指でズボンの前を空け、たっとい魔羅を引き出すことになるのは不潔であり、したくないからです。
 他人の挙手投足を観察すると、便器に向った後で形々しく手洗いをしますが、それはオカシイと思いませんか。
 排尿の雫が指について、汚いと思うのか性病羅患のせいなのでしょうか。単なるエチケットづもりだとしても、それ以前の魔羅接触は平気でいられるのでしょうかネ。
 衛生観念の違いは、「SMマニアックプレイ」の中でも如実に現れて、縄師自慢気の人士たちにも、「オイオイ、お前さんの手指は綺麗なのかよ!」と、縛術実践に顰蹙(ひんしゅく)することが多かったものです。
 この場では、パートナーを「生きた宝」と思うなら、常に清潔を心掛け給えとなります。
 八の字語りを始めながら、内容は外れてしまいましたが、「君との仲が永遠に続きますように、との思いで『8の日』ミーティングを毎日続けようよ」と告げた“郎女(いらつめ)”が過去に居りました。
 その人を、同人雑誌的ビニ本作りの編集者に育て上げてみたい、の愉芽(ゆめ)を持ったのですが、娘を持った事のない私は、「したまえ。やりたまえ。よしたまえ」言葉を躾け厳しい父親のような恰好で、多々口にし、成長を見守りたいと思ったものでした。
 也寸志イラストのヒロインは皆ブスばかりで、画風もキタナラシイ、と、「髭のサロン」の主などに言われ、可愛い顔つき、チャーミングな肢体のスレーブ描きには、モデルになって貰って刷新のエロストを発表してやろうとしたのですが、老獪な出版社オーナーの嫉妬が働いた事もあって「スプロウト」は突然の廃刊となり、愉芽は進展しませんでした。
 この話題は別項の扱いとしますが、若い人たちに「××したまえ」風に話す事が、「ふーむ、成る程」と感じ入って貰えるは楽しい事です。
 先生人は、若年の後生人より長生きしている事であり、何等かの経験をしており、体験を経てきていて、いわば有識者です。そうした者から「異喜」魅力を覚えるなら「??したまえ」話を素直に聞き出しなさい。
 自分の魔羅を向けてもいい、と思える良き異性が出現したら、「こうして御覧よ」とコトバを替えてでも、自分の方に誘導し訓練して行く力量作りを、先ず始めなさい。
 ポルノ知識も、自己咀嚼して「性の技量」のたくわえにしたまえ、です。
『風俗資料館』通いは老人も始めるでしょう。
 其処で皆さんと会いましょう! とは記しません。「諸君、是非其処へ行き給え」の力説だけ、残します。
■荒川也寸志
1933年生まれ。編集者、エロストレーター、文筆家。中宮栄の名で奇譚クラブに投稿。その後はSUN&MOON(サン&ムーン)、スペシャリーSM、異喜域、にちげつクラブ、SPROUT(スプロウト)、SMミラージュなどを創刊。荒川・中宮以外にも世田介一、多貫欣など多くのペンネームを使用している。
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三和出版秘性編集部
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