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『串名田村奇譚』 (左母次郎) 【第5回】

※こちらで2017年最後の更新です。皆様、よいお年を!


●第5話「再会」

「そんなばかな…」

ムラオサが呟いた。

「この男、ただの出来損ないだと思っていたが」

「槍」の光はは次第に強くなっていく。それに合わせるように、凄まじい苦痛がぼくを襲った。肉体も精神も全てを引き裂かれるような。

「あああああ!」

ぼくはのけ反り、叫び声をあげた。しかしそれは口からではなく、「槍」から放たれた。目も眩むような光線となって、天空の彼方へまっしぐらに。まるで目の前で核爆発が起こったようだった。

気がつくとぼくは真っ白な光に満たされた空間にいた。しんと静まり返っている。体に「槍」が刺さっていない。それどころか傷跡もない。よろよろと立ち上がる。

「何が起こったんだ」

突然、目の前の霧が晴れたように人の姿が現れた。ずらりと並んだ、裸の少女。胸から腹にかけて、それぞれ違う紋様が書かれている。今までに生け贄にされた少女達だ。その最前列に姉が立っていた。姉はぼくの記憶にあるより華奢で儚げだった。生気が感じられず、マネキン人形……いや、墓標のように見えた。

串名田村奇譚5

「姉さん……」
「勇穂」

抑揚のない、何人もの人間が同時に喋っているような声だった。

「あなたがここに来ることは想定外でした」
「ここは…?」
「エエエイイグァァァウォォォォムムの中です」

人間には発音出来なそうな言葉を姉は発した。

「エエエイイ…?」
「あなたはエエエイイグァァァウォォォォムムと融合したのです。私たちと同様に」

ぼくは以前呂末氏が言っていたことを思い出した。「槍」が放った光の中で、姉の身体は消滅した……ぼくにも同じことが起こったのに違いない。だが、とても理解が追いつかない。

「姉さん、教えてくれ、これはどういうことなんだ」
「私たちはテゥゥンドゥズェェイアンに造られた部品なのです」

姉は語り始めた。

746年前、テゥゥンドゥズェェイアン(天道人)は宇宙船の事故でこの地に漂着した。テゥゥンドゥズェェイアンは母星に救難信号を送ろうと通信機を作った。それがエエエイイグァァァウォォォォムム、村人達が「槍」と呼んでいるものだ。

しかしそれを作動させるためには部品が足りなかった。テゥゥンドゥズェェイアンはこの惑星の現住民に遺伝子操作を施して生きた部品にすることにした。能力の優れた個体を「槍」と融合させれば、亜空間通信が可能になるはずだ。けれども何度となく救難信号の送信を試みたが、全て失敗に終わった。

「初期の部品では必要な性能を満たしていなかったのです。この点は村人達が世代交代を重ねることで改善されてきました」

長い年月が過ぎ、寿命が尽きるまでの間に通信が成功しないことを悟ったテゥゥンドゥズェェイアンは人工冬眠に入り、あとを村人達に託した。これが今に至るまで続く祭の始まりだった……。

「私たちは通信が可能になるまであと数世代はかかるものと予想していました。しかし、あなたがエエエイイグァァァウォォォォムムと融合したことで状況が変わりました。あなたのおかげで通信は成功したのです。誰も予想していなかったことだけれど、あなたは桁違いに高い性能を持っていたのです」
「ぼくは何もしていない」
「あなたには部品としての自覚がないのです」
「何を言ってるんだ、ぼくは部品じゃない」
「いいえ、あなたは部品なのです。あなたも本当の名前に触れればわかるはずです」

「本当の名前」とは、姉をはじめ生け贄の身体に書かれた紋様のことのようだった。これを書き込まれたことによって、部品としての自覚に目覚めたのだと姉は言った。肉体を捨て、「槍」の一部となることを自ら選んだのだと。姉はもうぼくの知っている姉ではないのだろうか。

「ぼくは人間だ!」

投げやりな気持ちで叫んだ。姉と言葉を交わしながら、ぼくは外の様子を観察していた。頭の中に、いくつものヴィジョンを同時に呼び出すことができた。「槍」と融合したぼくは、「槍」の情報処理機能を無意識のうちに使いこなしていたのだ。ムラオサが叫んでいるのが見えた。

「ついに天界から返事が届いたぞ! 我らの悲願が達成されるのだ! 間もなく天道人様を迎えに船が訪れる!」

歓喜の声を上げる村人ひとりひとりの表情までが見えた。呂末氏が「山」を駆け上ってくる。異変に気づいて、いても立ってもいられなくなったのだろう。穂海は意識を失ったまま、石舞台の中央に倒れていた。唐突に、石舞台の真上の空中に巨大な物体が出現するのが見えた。地球など足元にも及ばないレベルに達した科学文明の産物。これが船……。

「船が到着しました。私たちの役目は終わりです」

姉の声で我に帰った。

「私たちは槍から離れることが出来ません。テゥゥンドゥズェェイアンと一緒に行きます。あなたはどうしますか?」

船の腹にある開口部から青白い光が放射されて、石舞台を包んだ。石積みが渕の部分から崩壊していき、逃げ遅れた村人も巻き込んで舞い上がっていく。それらは青白い光りの周りを円を描いて回転していた。穂海の倒れている中心部の岩が不安定に傾き始めた。

「ぼくを外に出してくれ。穂海を助けなきゃ」
「わかりました。融合を解きます」
「ありがとう、姉さん」

もうひと言別れを告げようとしたが、ぼくは「槍」の中から閉め出されていた。最後の一瞬、姉はわずかに微笑んだように見えた。

目眩に似た感覚があって、ぼくは石舞台の上に降り立った。ぼくは足元に倒れている穂海を抱きかかえて、次々に舞い上がっていく岩を避けながら走った。じゅうぶんに離れたところで振り返ると、石舞台は完全に崩壊し、その下に埋まっていた玄室がむき出しになったところだった。玄室の蓋が外れ、天道人がゆっくりと立ち上がった。身の丈3メートルはあるだろうか、人間に似ていないこともないが異質な生物だ。それはミイラのように見えたが、ゆっくりと目蓋を開け、コバルトプルーの目で辺りを見渡した。

「勇穂君!無事だったか!」

呂末氏が駆けよってきた。

「ドローンの映像を見て、てっきり死んだかと思ったよ」

ジャケットを脱ぎ、穂海の体にかぶせてくれた。

「すみません、ご心配おかけしました」
「しかし…驚いたな」

呂末氏は船を見上げながら感慨深げに言った。

「これが船…UFO…」
「天道人様!」
「天道人様!」

村人達の興奮は最高潮に達した。目に涙を浮かべ、天道人の名を叫び続ける。天道人は呼びかけに何の感心も示さず、「槍」に手をかざした。「槍」はすっと宙を舞い、その手に収まった。天道人は青白い光の中心まで歩いて行き、ふわりと浮き上がった。そのまま見えないエレベーターにでも乗っているように上昇して、船の開口部に入っていった。すると光の照射が止まり……船は出現した時と同様に唐突に消えた。

光の周りを舞っていた岩が、真下で右往左往している村人達の上へ降り注ぐ。ムラオサも取り巻きも岩の下敷きになった。ぼくたちのいる辺りも安全ではなかった。大小の石が雨あられと降って来る。

「こっちへ!」

子どもの頃よく遊んだ洞窟へ、命からがら逃げ込んだ。

夜が明け、辺りの惨状があきらかになった。石舞台を形作っていた岩の直撃で、山頂周辺は地形が変わってしまっていた。村人達は1人残らず死んでいた。穂海は目を覚ましてからずっと涙ぐんでいた。

「みんな死んじゃった。お父さんも、お母さんも…」

生け贄にされかけたとは言え、実の両親の死はショックだったに違いない。ぼくは黙って穂海の肩を抱いた。悲しみはぼくも味わっていた。じゅうぶんすぎるほど。

一方、呂末氏は残念そうだった。大金をつぎ込んだドローンは「ピカッときた」瞬間に行方不明、インターネット中継は全裸の男女が無修正で映っていたため中止になった。映像そのものは保存されているが、串名田村が消滅してしまった今となってはなんの価値もない。振り上げた拳をおろせなくなった格好だ。

呂末氏は帰りの車でぼやき続けた。

「悔しいなあ、ムラオサの奴にほえ面かかせてやろうと思ったのに」
「それより、UFOの記事を書いたらどうですか?呂末さんの言ったとおり、天道人は宇宙人だったじゃないですか。世間をあっと言わせてやりましょうよ」
「そうだ、そうだよな。ぼくは間違ってなかったんだ。ようし、書くぞ。オカルトライター呂末五十一の復活だ!今度は嘘つきなんて誰にも言わせないからな」
「呂末先生、頑張って!」

穂海の声援にVサインで答えた呂末氏だったが、あっと叫んで車を急停止させた。

「どうしたんです?」

彼はがっくりとうなだれて答えた。

「UFOの写真、撮るの忘れた…」

(おわり)


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