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『串名田村奇譚』 (左母次郎) 【第2回】

●第2話「面影」

姉がいなくなって、村でのぼくの居場所は完全になくなってしまった。姉があの夜どうなったのか、誰も教えてくれない。父母でさえ口をつぐんでいた。

15歳の時ぼくは村を出た。見送ってくれる者などいない。逃げるように旅立った。妹の穂海が気がかりだった。その年、穂海は山での儀式で天道人様の声を聞いたのだ。しかも、他の村人よりはっきりと。

ぼくは都会で仕事を見つけ、アパートを借りた。新しい生活に馴染むにつれ、ぼくは村が異常な場所だと知った。

ぼくは図書館に通い、串名田村の祭のことを調べ始めた。姉の死について、村の祭がどんなものなのか知りたい。だが何も見つからなかった。串名田村に関する記述は全くと言っていいほど見つからないのだ。

やっと見つけたのはオカルト雑誌の記事だった。

『××地方の山奥に串名田村という小さな村がある。ここには奇妙な風習がある。村人達の信仰の対象は仏教でも神道でもなく、天道人と呼ばれる謎の存在だ。村の言い伝えによるとはるかな昔、天の世界からやってきた青い目の巨人だという。天道人はその知恵で村にさまざまな恩恵をもたらせた。村人達は飢えることも病で死ぬこともなくなったという。やがて天道人は年老い、故郷を懐かしむようになった。村人達は天道人を天の世界へ帰す手助けをすることにした…

『天道人が最初に降り立った山の頂上に石の舞台を造り、村人達が天道人に教わった歌を歌い、生け贄を捧げれば天の世界から迎えが来る。村人達はそう考えた。これが今も伝わる、祭と呼ばれる儀式のはじまりなのだ。ここの祭には神輿も祭囃子もない。ただ、奇妙なメロディの歌と、生け贄の血があるだけだ。そう、あろうことか、この祭では若い娘を生け贄として捧げるのだ…

ここまではよかったが、あとは読むに耐えない眉唾の羅列だった。

『天道人とは何なのだろうか。日本の他の地域の伝承にもある渡来人、すなわち外国人なのだろうか。いや、天道人こそは宇宙人なのに違いない。そう考えれば、村の奇妙な風習も説明がつく。それだけでなく、ここの村人達は宇宙人のDNAを受け継いでいるのに違いない…
『天道人(宇宙人)を天の世界(宇宙)に送り返すためにはUFOを呼ぶしかない。UFOを呼ぶには世界各地に色々な儀式があるが、この祭はその最古の例だろう…
『UFOを呼ぶのに生け贄を捧げる理由はなんだろうか。筆者の想像では、生け贄が殺される際の生命エネルギーが宇宙空間に歪みを生じさせ、亜空間トンネルを数百光年先まで作り出し、さらに村人達の歌う歌がテレパシーとして伝わり…

うんざりして雑誌を放り出そうとした時、ページの片隅の写真が目にとまった。不鮮明な写真だったが見間違えようがない。

姉だ。

写真の中で、姉は悄然と石舞台の中央に立っていた。傍らにはムラオサが村に伝わる神器である「槍」を構えている。写真からはかろうじてそれだけがわかった。記事の著者を見ると呂末五十一とあった。ほんの僅かでも手がかりが欲しい。ぼくは呂末氏を訪ねてみることにした。

オカルト雑誌の編集部に問い合わせ、聞き出した住所に行ってみると、そこはみすぼらしいアパートだった。ノックするとライターというより学校の先生のような雰囲気の中年男性が現れた。呂末氏本人だ。記事内容から見られるエキセントリックな印象はない。

「うさぎぞの…兎園勇穂くんだね。編集さんから聞いているよ。さあ、入って入って」

部屋の中はところ狭しと本が積み上げられていた。大半がUFOに関する本だ。他に目につくのはタバコのヤニで黄色くなったパソコンと、登山用のザックやザイル、ピッケルなど。ソファーがひとり分空いていて、そこに座るよう勧められた。呂末氏は立ったまま灰皿を手に、タバコに火をつけた。

「何か聞きたいことがあるんだって?」
「この写真についてお聞きしたいんです」

ぼくはあの記事のコピーの束をバッグから取り出した。彼はああこれか、とページをめくり、

「この写真、携帯で撮ってすぐこのパソコンに送ったから無事だったんだ。うんと拡大したから不鮮明だけどね。あとのはピカッと来たときにパーさ」
「ピカッと?」
「そう、ピカッと」

呂末氏は話し始めた。

呂末氏が串名田村のことを知ったのは12年ほど前、まだオカルトライターとして駆け出しの頃だった。取材で知り合ったある男から教えられたのだ。彼は串名田村の出身者で、ある理由で村から追放されたのだと語った。村には宇宙人とのコンタクトとしか思えない伝承があり、祭では若い娘を生け贄として捧げるのだと言う。ライターの血が騒いだ。これはスクープに違いない。その男をガイドにして取材に出発した。

祭が行われるのは9月のはじめ頃だ。10年前のあの日…姉が生け贄にされたあの日。

だが、串名田村に近づくのは容易ではなかった。余所者を極度に嫌う村人達にたちまち追い払われてしまった。これは予想していたので、山の反対側から接近して石舞台を取り囲む岩峰の一つによじ登り、そこに身を隠したという。息を潜めることまる2日。目の前で展開されたのは異様な光景だった。

「日が暮れた頃、村人達が石舞台を取り囲むように集まりはじめて…。で、全員が素っ裸になって、歌い始めたんだよ。なんかこう、気が滅入るようなメロディで、何語なんだか意味不明の。そのうち女の子が神官みたいな格好の男に連れられて、舞台の真ん中に来て…」

写真を指差して続ける。

「これはその時撮ったんだ。そして、この男がこの尖った棒でこの娘の…」
「姉さん」

思わず呟いた。

串名田村奇譚2

「姉さん?この娘は君の姉さん?」

とたんに呂末氏の口が重くなった。

「呂末さん、姉はどうなったんです?教えてください!」

どうやら、ぼくにショックを与えたくないという配慮らしい。さんざん懇願してやっと聞く事が出来た。

「この棒、槍って言うのか。これでな、串刺しにされたんだよ。尻から口まで、グサッと」

思わずうめき声が漏れた。優しかった姉が、美しかった姉が…

しばらくして気分が落ち着いてから、ぼくは訊いた。

「…その、ピカッというのは」
「ああ…この男が槍を舞台の真ん中に突き立てたら、槍が歌に反応してるみたいに光り出して、空の彼方まですーっと届くような光線を放ったんだ。それが、目を開けていられないくらいに眩しくなって…と思ったら消えたんだ、光が。そうしたら槍だけが舞台の真ん中に突っ立ってて、君のお姉さんはどこにもいなかった。消えちまったんだ」

続く


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